しょうゆの効果・効能について

記事:矢田醤油店 矢田敦子

「しょうゆ」は私たちの知る最も身近な調味料であり、時には“万能調味料”といわれることもあります。この理由は、和食には勿論のことあらゆる料理と合うからです。下ごしらえ、調理、仕上げにとしょうゆを少し加えるだけで料理の味が引き立ちます。そして、しょうゆは世界各国の料理にも利用されています。普段私たちが行っている調理の仕方を思い出してみると、意外に科学的根拠に基づくような理にかなった方法になっているのです。

しょうゆ本来の持つ効用は以下の通りです
① 消臭効果
② 加熱(芳香・放香)効果
③ 静菌(殺菌)効果
④ 緩衝効果

お刺身(消臭効果)

① 消臭効果:生臭さを消す効果があります。
刺身にしょうゆをつけて食べるのは、味だけでなくしょうゆに生臭さを消す働きがあるからです。しょうゆの力によってpHが弱酸性になることで、魚一般にある生臭さの原因である揮発性のトリメチルアミンが中和され、揮発性が無くなり素材の生臭さが感じられなくなるのです。何気なく食べているのになんだか不思議ですね。

焼団子(加熱(芳香・放香)効果)

② 加熱(芳香・放香)効果:食欲をそそる色と香りを出してくれます。
焼鳥や蒲焼などのあの食欲をそそるなんともいえない香りは、しょうゆの中のアミノ酸とみりんなどの糖分が過熱されて起こるアミノカルボニル反応によるものです。この反応によりメラノイジンという褐色色素が生じ、香りの成分ができるのです。また、この反応は照りを出す働きもあります。照り焼きチキンなどのあの美味しそうな見た目は、まさにこの反応を活用したものですね。

にんにく醤油漬け(静菌(殺菌)効果)

③ 静菌(殺菌)効果:食塩分やアルコールと、酸が日持ちをよくしてくれます。
しょうゆには塩分やアルコール類、有機酸という成分が含まれており、大腸菌などの増殖を止めたり死滅させたりする効果があります。しょうゆ漬けや佃煮などはこの効果を活用して日持ちをよくしているのですね。

④ 緩衝効果:食べ物をおいしい弱酸性の範囲に保ってくれます。
多くの食べ物は弱酸性にあり、これはおいしさと大きく関係しています。しょうゆそのものも弱酸性なのですが、しょうゆには「緩衝能」といって急激なpHの変化をおさえて料理のpHを弱酸性に保つ力があります。この作用によって煮物、和え物、酢の物など調和のとれた味付けができるのですね。

また、互いに作用しあって発揮するものもあります。
⑤ 対比効果
⑥ 抑制効果
⑦ 相乗効果

⑤対比効果:甘味をより引き立ててくれます。
甘い煮豆の仕上げに少量のしょうゆを加えると甘みがいっそう引き立ちます。これはおしるこやスイカを食べるときにひとつまみの食塩を振りかけることで甘味が増すのと同じ効果ですね。主体の味が強くて他方の味(しょうゆ)をごく少量加えることによって、主体の味が一層強く感じられるこのような効果のことを対比効果といわれます。

おつけもの(抑制効果)

⑥抑制効果:塩味をおさえて味をやわらげてくれます。
漬かりすぎた漬物や塩鮭など、塩辛いものにほんの少ししょうゆをたらすと、塩辛さがおさえられます。これはしょうゆに含まれる有機酸類に塩味をやわらげる力があるためです。このように、何かと何か(しょうゆ)を混ぜたときに一方、あるいは両方の味が弱められることを抑制効果といわれます。

鰹節と昆布と醤油(相乗効果)

⑦ 相乗効果:だしと働き合って深いうま味をつくってくれます。
しょうゆの中のグルタミン酸と、鰹節の中のイノシン酸が働き合うとコクのある深いうま味がつくりだされます。そばつゆや天つゆなどがこのよい例です。このように何かと何か(しょうゆ)を混ぜ合わせることにより、両方の味がともに強められることを味の相乗効果といわれます。

普段何気なくしょうゆを使用しているときにこれらの効用が発揮されているんだとあえて意識してみると、しょうゆを使うのがなんだか楽しくなってくるかもしれませんね。料理をするときには是非思い出してみて下さい。

参考文献:しょうゆの不思議(日本醤油協会、2005年10月)

WRITTEN BY 矢田敦子


安来市で100年続く「矢田醤油店」の3代目。家業を継ぐため大好きな安来にUターン。東京出身の夫と一緒に安来を多くの方に知ってもらいたい!と『ヘヴィメタル好きなお醤油屋さん』にも挑戦中です。
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