キッチンと包丁置場

記事:安藤建築設計室 安藤かおり


この写真の包丁は、とある職人が娘の結婚の際に選んで贈った3本だ。
(上:越前丸勝 作 中:伊藤裕翠 作 下:杉原渓童 作)
どれも芸術品のように素晴らしく美しい。
初めて見せてもらったときはため息が出るほどだった。

刃物というものは意味や想いが宿る。
それは想い出と共にあることが多い。
それなら、きっと収納方法も
人それぞれ違っていてもいいのかなと思う

包丁置場バリエーション

包丁収納はいろんなバリエーションがある。
レストランのシェフみたいに、カウンターに置くタイプも人気があるが、家庭では、システムキッチンの扉の中に付属している、包丁立てに仕舞う人が多いだろう。
開き扉の内側、シンク下の引出の手前等…シンク前の小さなスペースを有効活用しているものもある。はいたずら防止ロック機能の有無なども含めると、キッチンパーツの中では充実している分野で選ぶのも楽しい。

一方で、そもそも包丁を包丁立てに入れたくない、という声もある。
その理由は、毎日使うものだからすぐ傍に…、という風から話は始まって、よくよく話を聞いていると「湿気や汚れが気になるから…」という理由の方が大きいという事が多い。

米子東町の家

例えば、壁にマグネット収納を取り付けてナイフをペタッと貼る。
このマグネットの既製品は大概、分厚くつくられている。私は、当初はあまり目立たないようにしたくて、薄いものを探したり、壁に埋め込んでみたりした。でも、薄いと柄が大きい包丁は取り外しにくい、ということに気がづいた。この厚みにはちゃんと理由があったのか。写真のような小さいナイフや小物なら、薄いものも、納まりや使い勝手もよいと思う。万能視されがちなマグネットだが、「何を取り付けるか」が実は非常に重要ということだ。

吊るす・掛けるという収納方法は、道具が納まった姿を完璧に設計でコントロールすることは難しい。でも、道具が好きな台所人にとって、自分の選んだ道具を常に眺められることは、価値の大きいことだと思う。何をどのくらい掛けるのか、どう見えてほしいのか想定しながら設計を進める必要がある。

赤崎の家

「包丁は、清潔なふきんの上に並べて置きたい」という台所人と出会った。
小さなお子さんに構われないよう、引出し収納の内側右半分に薄い小引き出しをつけた。ここにふきんを敷いて、包丁を並べて頂くことにした。
引出しの中を覗き込まない限り、小引出しがあることには気づかない。プッシュオープンで奥に押し込むと一瞬で手前に大きく引き出せる、刃物の並べる為にはゆとりのスペースが欲しい。金物選びは慎重になる。

引き出しのなか

 上の写真の場合は左半分の小引出しのないスペースを、ココットや湯呑とかにちょうどよい高さにした。潰れがちな紅茶の箱もぴったり入って、実に使いやすい。


上:越前丸勝 作 中:伊藤裕翠 作 下:杉原渓童 作

「ふきんの上に並べたい」など具体的な言葉は
イメージを膨らませ、こちらも迷いなく提案しやすい。
家人それぞれの、理想の包丁の在り方を聞いていると
その人の暮らし方や大切にしている事がほんの少し見えてくる。
それはすこしだけ家全体の設計の大切な部分と連動しているような気がしている。

written by 安藤かおり 
(一級建築士事務所 安藤建築設計室)
名古屋出身。一級建築士。今は山陰にて夫婦で建築設計事務所を運営しながら、環境デザインと薪ストーブについて研究中。
設計と研究と育児に追われる日々を過ごしています。

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