茨木のり子の献立帖

記事:子どもの本つ~ぼ 市ケ坪裕子

キッチンといえば、お料理。お料理といえば、料理の本が浮かびます。
私の本屋では、子どもの本を扱うことが多いのですが、食べること、おいしいものが好きなので、ついつい素敵な料理の本を見つけると、注文してしまいます。
その中の一冊を、今日は紹介させていただきます。

茨木のり子の献立帖

茨木のり子さんの本「茨木のり子の献立帖」です。
この本を紹介するにあたり、先ずはじめに、茨木のり子さんの詩を披露します。この詩にはじめて出会ったときの衝撃を忘れることはできません。
20代の多感な頃だったので、よけいに、その詩が、ストレートに心のなかにはいってきました。

自分の感受性くらい

ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて

気難しくなってきたのを
友人のせいにするな
しなかやさを失ったのはどちらなのか

苛立つのを
近親のせいにするな
なにもかも下手だったのはわたくし

初心きえかかるのを
暮しのせいにするな
そもそもが ひよわな志にすぎなった。

駄目なことの一切を
時代のせいにするな
わずかに光尊厳の放棄

自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ

「おんなのことば」より引用 作者 茨木のり子 童話屋出版
おんなのことば

詩人として、人として凛としたイメージが勝手にあったので、お料理される方だとは全く思わなくて。
だから、このタイトルをみた時、えっ!茨木のり子さんと思ったのですが。
本を開くと、膨大な日記や、料理スクラップブックのなかから、茨木家の食卓メニューが再現され、昭和30年代~40年代なのに、その当時モダンだったと思うのですが、パエリア、ガスパッチョ、リゾット、ベークドポテト、チーズケーキ、などなど次々と。その上に愛用の台所道具や器も紹介されています。ご本人の手書きの字が、家庭生活があたたかかったんだなと、とても充実した豊かな人生を送られたのだと伝わってきます。

詩だけでなく、ますます、茨木のり子さんの魅力にファン熱も高まります。
ここで紹介できないのは残念ですが、本の終わりに書いてある家の間取り図があって、特に台所に対する熱い思いが書かれています。
茨木のり子さんに興味がある方は、ぜひ、この一冊も紹介します。

茨木のり子増補新版

written by  市ケ坪 裕子
2017年3月13日に島根県安来市に子どもの本屋「子どもの本つ~ぼ」をオープン。子どもの本を真ん中に、わくわくどきどきするもの、心和むもの、美しいものを皆様に届けたいと思っています。時にギャラリー、時に講演会、演奏会など、これからしていきたいです。そして、老若男女、安来の町が元気になることを願っています。

https://www.instagram.com/tsubo_book/

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