「食卓一期一会」
記事:子どもの本つ~ぼ 市ケ坪 裕子
詩人 長田弘さんの本が、大好きなのですが、そのなかでも「食卓一期一会」は秀逸です。
あとがきのことばに、なるほどなと何度も頷いたのですが、ここに紹介します。
「食卓は、ひとが一期一会を共にする場。そういうおもいが、いつもずっと胸にある。食卓につくことは、自分の人生の席につくこと。ひとがじぶんの日日にもつ人生のテーブルが、食卓だ。かんがえてみれば、人生はつまるところ、誰と食卓を共にするかということではないだろうか。」
「食卓一期一会」 著 長田弘 より

この本の中の詩もひとつ紹介いたします。
自分の手で、自分の
一日をつかむ。
新鮮な一日をつかむんだ。
スがはいっていない一日だ。
手にもってゆったりと思い
いい大根のような一日がいい。
それから確かな包丁で
一日をざっくりと厚く切るんだ。
日の皮はくるりと剥いて、
面取りをして、そして一日の
見えない部分に隠し刃をする。
火通りをよくしてやるんだ。そうして、深い鍋に放りこむ。
底に夢を敷いておいて、
冷たい水をかぶるくらい差して
弱火でコトコト煮込んでゆく。
自分の一日をやわらかに
静かに熱く煮込んでゆくんだ。こころさむい時代だからなあ。
「食卓一期一会」 著 長田弘 より
自分の手で、自分の
一日をふろふきにして
熱く香ばしく食べたいんだ。
熱い器でゆず味噌で
ふうふういって。

こんなふうに ことばで 料理を語りながら、人生をさりげなく伝える。見事な詩に驚きます。
どの詩もどの詩もよく。そして、表紙も美しく、なかの字の色や余白の白の使い方まで、隅々まで美しいので、ぜひ、手に取ってご覧いただきたい。
~あなたは 誰と 食事を共にしますか~