しょうゆの微生物について

記事:矢田醤油店 矢田敦子

よく、『しょうゆはどう保存したらいいんですか?』という質問をいただくことがあります。
それを説明するために、今日は発酵について少し触れたいと思います。
「しょうゆ」が発酵食品であるということは誰もがご存じかと思います。でも、どんな微生物がどのように関わっているのか具体的に知っている方は少ないのではないでしょうか。

しょうゆに関わる微生物は
1麹菌、
2乳酸菌
3酵母
の3種類で、これらがしょうゆのおいしさをつくりあげる働きをしています。

1.麹菌
うま味や甘み、色のもととなる基本的成分をつくり出す役割を持っています。
原料である大豆や小麦のたんぱく質、でんぷん、脂肪などをゆっくりと穏やかに分解してくれる酵素をつくり出してくれます。酵素には、たんぱく質を分解してペプチドやアミノ酸にする酵素、でんぷんを分解してブドウ糖にする酵素、脂肪を分解してグリセリンにする酵素があります。

2乳酸菌
しょうゆの味に深みをつくってくれます。
麹菌がつくった酵素によって分解されたブドウ糖などをもとに、乳酸や酪酸等の有機酸をつくり、諸味(もろみ※)を弱酸性にしてくれます。(※もろみとは、しょうゆ麹と食塩水を混ぜたものです。熟成後これを絞ってできた液体がしょうゆになります)
このときできた有機酸の一部は、アルコール類と反応してしょうゆのあの良い香りの成分になります。

3酵母
主発酵酵母”と“熟成酵母”というちょっと違ったタイプの2種類がいて、どちらもブドウ糖からアルコール類や、しょうゆの香りといわれる特有の香りをつくってくれます。(このしょうゆの香りは食塩濃度の高いところで多く作られるそうですよ。)

前回しょうゆは全部で5種類あるというお話をさせてもらいましたが、
それぞれの味は勿論のこと見た目の色も異なっています。
色にも、これら微生物の話も関わっているのです。

しょうゆの色メノライジン

しょうゆの色の正体は「メラノイジン」という褐色色素です。
これはしょうゆ以外にも多くの食品に存在しますが、しょうゆでは特に赤みのある色調(赤橙色)なのが特徴です。麹菌の働きでブドウ糖などの糖分とアミノ酸やペプチドが醸造している間と、しょうゆに高い熱を加えた時に反応(アミノカルボニル反応)してできます。メラノイジンができるという点は一緒なのですが、醸造工程の着色反応と製品の着色反応のメカニズムは異なっています。1つのものの中で異なった反応が起きる。なのにできるものは同じものなんてとても複雑でおもしろいですよね。

醸造工程では、乳酸菌や酵母の働きによって諸味(もろみ)は弱酸性になり、酸素の無い還元状態となってこの時に明るい赤橙色の色素がつくられます。このように食欲をそそられるような赤みを含んだ色がつくられるのが醸造・発酵食品であるしょうゆの大きな特徴です。

これに対して製品の着色では、空気に触れると酸化反応を起こし色が黒っぽく変化してきます。ちなみに低温にするとこの変化の進みが遅くなります。

冒頭の『しょうゆはどう保存したらいいんですか?』
という質問のこたえは…できるだけ新鮮さを保つために大切なことは、
・酸素に触れさせないこと
・温度を低く保つことがポイントです。
ですから、しょうゆの蓋を開けた後は冷蔵庫に保管された方がより品質を維持できますので、是非ご自宅のしょうゆがどこで保存されているか確認してみて下さいね。

そしてしょうゆの香りを嗅いだ時、味わったときには「ああ、微生物たちがこのしょうゆの良さをつくりだしたんだな」と感じてもらえると嬉しいです。

written by 矢田敦子

安来市で100年続く「矢田醤油店」の3代目。家業を継ぐため大好きな安来にUターン。東京出身の夫と一緒に安来を多くの方に知ってもらいたい!と『ヘヴィメタル好きなお醤油屋さん』にも挑戦中です。

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