キッチンと冷蔵庫

記事:安藤建築設計室 安藤かおり

郊外住まいなので新鮮な野菜は事欠かない。
これは大変ありがたい。我が家の580Lの冷蔵庫には、いつも安心な旬の食材がストックされている。

建物プラン段階で、冷蔵庫は食材庫や家電とともに場所が決まっている。電子レンジは奥でもいいけど、冷蔵庫は手前に設定して、キッチンからもダイニングからも使いやすい場所にしたい。

家族がみんな料理する場合、冷蔵庫はキッチンに対して横向きにレイアウトすることもある。リビングと距離が近くなる分、冷蔵庫の存在が目立たないようにしたくなる。個人的には木製造作で処理するより、壁内をくりぬくなどして冷蔵庫の存在が消えるような配慮がいいなと思う。

キッチン全景(赤江の家・安藤建築設計室)
赤江の家 キッチンプラン(安藤建築設計室)

 冷蔵庫は正面のデザインはよくても、側面までかっこいいというのは少ない。冷蔵庫隣に低い家具を置くと冷蔵庫の側面が見えるのが嫌だ。冷蔵庫に家具に隣接する場合は、薄い壁を付けて側面を隠すようにしている。

正面から見たとき小口を無垢木にすることで品よく見せることができる。本体部は反りを避けるため軽やかに見えるシナベニアや油水面の時にはタイルなど合わせ、異素材同志の取り合いには野暮ったくならないよう、深めの目地を2mm程取る。

普段当たり前にしていることだけど、このあたりの納め方は人それぞれで、比べてみると面白いのかもしれない、と思ったりした。

壁で冷蔵庫置場を隠す(車尾の家・安藤建築設計室)

 冷蔵庫横に、壁を設置するとき気をつけたいのは買い替え時のこと。10年後のトレンドはわからないので、余裕があれば15センチ程度の余裕を持たせてやる。隙間は市販の段ボール立てやマグネット収納等で十分工夫できる。
しかも、両側に壁ができるので、後からでも冷蔵庫上に棚を設置すればデットスペースが解消する。冷蔵庫分の大きさの棚は、箱に入ったままのホットプレートやミキサーなど案外便利。それがリビングから見える場所であれば、大きな藤籠をひとつ用意すればそれなりの体裁が保てれるのだ。

見切れかかっているが、左側が冷蔵庫置場(車尾の家・安藤建築設計室)

 
 先程、冷蔵庫の置き場は手前がよいと書いたものの、小さな家の場合は、実は必ずしもそうとは言えない。

小さな家は、どうしても冷蔵庫の存在割合が大きくなる。どう結んでも絶対距離も短い。だから出来るだけリビングから離れた場所に置きたくなる。

基本的に30坪前後で設計するときは、まず設計時にキッチン全体の回遊性を取り入れる。廊下や、通り抜けできるパントリーの中に冷蔵庫を入れてしまえば、案外、なんとかなってしまう。小さい家はとにかく便利。

キッチン~パントリー内に冷蔵庫~玄関(奥谷の木家・安藤建築設計室)
奥谷の木家キッチンプラン(安藤建築設計室)

「小さい家の遠回りは遠回りじゃない」と割り切って、全体のバランス重視でいきたいいなと思う。


昔、私自身が都心に住んでいたころのマンションは、立派な対面式のペニンシュラキッチンだった。突き当りのコンロの後ろに「冷蔵庫の場所」、よくあるパターンでした。

1人で調理するときに、冷蔵庫から何かを出すのは便利だ。でも、夫がしょっちゅうビールを取りに来る。調理途中で、キッチンはまだ片付いてない。片付けながら料理が出来ればいいのだろうけど、そういう小さなことがストレスだった。空間もカウンターも家族とつながっているはずなのに、結局ひとりで冷蔵庫ごと台所仕事を引き受けたら、とても孤独に感じたということがあった。

今も冷蔵庫の位置ひとつが気になってしょうがないのは、自分の体験が大きいのかもしれない。

written by 安藤かおり 
(一級建築士事務所 安藤建築設計室)
名古屋出身。一級建築士。今は山陰にて夫婦で建築設計事務所を運営しながら、環境デザインと薪ストーブについて研究中。
設計と研究と育児に追われる日々を過ごしています。

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